Craftsman Interview #3

365日、革に夢中!

加藤 キナ

革は使われることで命が吹き込まれる

ナ) 最近、お客さまからお直しの依頼がよく入るんです。合皮のものは3年位でダメになってしまうけれど、天然の革はきちんと手入れして使えば、10年以上長く使ってもらえる。
私たちが作った品はその時点では完成形ではなくて、そこからお客さまが育ててゆくものじゃないかと思うんです。使い込まれることでどんどん艶が出て、味わいが出て、命が吹き込まれていく。だから長く使われたモノのお直しがあるととても嬉しいんです。 
キ) こんなボロボロになるまで使ってくれていたんだ、と感動することあるよね。 
実際に使われたことで、変化というか、答が出てくる。あそこの縫い方はこうしたけど、使ってるとこうなるんだ、じゃ、次はこうしよう、という答が見えてくるのが楽しい。予想外のことが起きていたり、逆に心配していたところが案外大丈夫だったり。

─────お客さまとの関わりでは何かありますか?

ナ) 私は納品の時にお手紙を添えるので、お客さまからもお手紙をもらうことが多いんです。最近いただいたなかでは、奥さまがご自分用に注文して鞄ができあがったのを見て、ダンナさまがとても嬉しそうにしている、というお手紙。注文してくれたお客さまだけでなく、その周りの人にまで幸せな気持ちが連鎖していったことが嬉しいな、と。
そうそう、“キナ”の名前はマラリアの特効薬キニーネを生成するキナの木からも貰っているんです。癒やしの意味というか。 
キ) マラリアもない日本でキニーネが名前の由来って、それ、どうなの?

─────(爆笑)

革コサージュはなほさんの担当。りんどうの花は宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」からインスパイアされた品

工房にはお二人の世界観が感じられる素敵なオブジェや書籍がいろいろ


人は身のまわりの持ち物に影響される

─────癒やしというか、私がお二人の作られた品を使うときはむしろ「これを持っていて嬉しいな♪」と気分が上がる感じですよ。手縫いだと知っているからかもしれないけれど、縫い目のステッチ一つ一つが愛おしくて、自慢したくなる。

ナ) その嬉しい気持が一瞬で終わらないでほしいな、ずっとずっと長く続いてほしいな、と思います。初期の頃は奇をてらうモノも時々作っていたけれど、今はじんわりと良さが伝わるものを作りたいです。 
キ) でも、象牙のついている財布とかは一点ずつしかないから、「どうだ!」みたいな気持ちもあるんじゃないかな。

─────それは牧さんの気持ちとして? それともお客さまの気持ち?

キ) それを選んだお客さんが家紋を背負ってるような。財布は一日に必ず一回以上は触るものだし、毎日つきあっていることで使う人そのものが表れるんじゃないかと。
ナ) じゃ、名前と一緒だ。「名は体を表わす」じゃないけど、人間って身のまわりの持ち物に影響を受けちゃうから。日々纏う服や食べるもの、身に付けるものに何気なく左右されてる。 
キ) お客さまにも「気分を明るくしたいから明るい色を持ちたい」と言われることもあるね。

足の先まで細工が見事な兎の財布。革の手触りも心地よく、使うたびに満ち足りた気持ちに(聞き手私物)。

いつも飄々としている牧さんとキュートでチャーミングななほさん。二人合わせて“加藤キナ”。


─────それとはちょっと違うかもしれないけれど、私の場合、大事に作られたものを使うときは自分も丁寧に扱おうと心がけるようになりますね。元々ガサツな人間なので、無意識だとつい乱暴になっちゃうんだけど、そういうものを持つことで自分の動作、所作が変わっていく、みたいな。

ナ) だから、自分が影響されたいものを身近に置くといいんですよね。

─────キナの品は人の行動まで変えてくれる、人を高めてくれるパワーがあると思いますよ。

キ) モノがあふれている時代だから、自分が作る必要があるのかなって思うこともあります。だから巷にあるものと同じようなものを作ったり、同じような作り方をするくらいならやめたほうがいいんじゃないかと。 
ナ) でもやめられないでしょ? 革を取り上げたら窒息しちゃうんじゃない? 仕事が空気みたいなものだよね。

─────最初に製作をしていたのはなほさんで、牧さんはなほさんと出会ったことで革の仕事にこんなにものめり込んでいったというのが、不思議というか運命的というか。

ナ) 私より革に夢中だものね。あっ、「私より」っていうのは「私が革に夢中になっているより」っていう意味ですよ。 
キ) いやいや、すべてはあなたのためですよ。あなたの喜ぶ顔が見たいからですよ(笑)。
(2014年7月18日 聞き手 白石由美子)